憧れの包丁研ぎ
バイト初日に、料理長(色白で華奢)が、厨房に連れてってくれたんですが。
そこで目にしたのが、金髪っぽい若者の後姿。あたしね、口を利いたことがないのね。「金髪っぽい若者」っていうカテゴリの人と。
「え、マジ?」って、ちょっと思った。今日から、仲間?仲間って、思ってもらえるかなー。おばちゃんのこと、ちゃんと視界に入れてくれるかなー。目もあわせてもらえないんじゃ…。不安。
って思ったその瞬間、若者がこっち振り返って、手元が見えました。
やだ!包丁を研いでるじゃない!なんてこと!!
あたしの永遠の憧れ、包丁研ぎ。やってみたいけど諦めてた、包丁研ぎ。ここで、突然の出会いをするとは。
何を隠そう、富士子宅には、包丁の研ぎ方のDVDがあります。なかなかのレアアイテムでしょ。あるとき、日本橋木屋で、高級包丁を買ったんですよね、料理上手目指して。それまで愛用してた、西友で買ったステンレス包丁はだいぶお疲れだったけど、木屋の鋼の包丁は、たまねぎ切っても涙が出ないの。やっぱ違うわね、本物は。ま、指も切っちゃうんだけどね。そこは本物使ってる宿命っていうかね。
で、やっぱ手入れもしてこそ、料理上手よね、うふふん。っつんで、アマゾンで砥石を探してたら、DVD付きのがあったので、ポチっとやったわけです。
このDVD、道場六三郎的な人がレクチャーしてくれて、いかにも匠の技!って感じの演出が冴える、見ごたえ充分な内容だったんですけどね。肝心の研ぎ方は、あまり頭に残らなかったのね。あまりに匠すぎて、もう、自分がやるとか考えられない感じでね。NHKスペシャル観たような充実感を得まして。で、満足して、DVDは棚にしまって、「砥石は、そうだなー、重たいしね、洗濯機の脇に置いとくか」っつったのが、2年前かなー。その間、一度も触ってないです。砥石。
木屋の包丁は、順調に切れ味悪くなってきまして、指を切ることも減りまして「私たちには、むしろこの関係がちょうどいいんじゃない?」って、まるで愛人歴2年、って感じの馴れ合い関係に落ち着いて、今に至ってます。
いつしか、包丁研ぎは、「乗馬」とか「世界一周」とか「気球に乗る」みたいな、死ぬまでに一度はやってみたいなー、っていう遠い憧れになっていきました。
そこへ、金髪の若者ですよ。やってるじゃん、包丁研ぎ。こともなげに。「べつに普通っすよ、全然」な感じで。
ちょっと…。カッコいいじゃん!
金髪の若者への、おびえが吹っ飛んだ瞬間でした。是非、仲良くさせて頂きたい。
なんでもします。
明日もバイト、頑張ります。