裏の厨房で反省してます

許して アタシのでたらめ人生

おばさんバイト、クビか?そもそも、続けていいのか?

 

ただいまー!

 

居酒屋厨房バイトに、新人君が入りました!彫りの深いエキゾチックな顔立ちに、濃い目のひげ、シルバーのごっついネックレス。「よし、今日からおまえはアントニオだ!」(C)太陽にほえろ ってことで、富士子的には、アントニオ(推定26歳)に決定。パチパチパチ!

 

気になるのは、かねてより、職場になじめず仕事もおぼつかない富士子(45歳)。いよいよ、クビになるのか? お払い箱か? いやー、世の中ね、簡単にクビになったりしない、労働者の権利は強い、って言いますけど、あたしは実際クビになったことあるんで、リアルな恐怖だったりするんですよ。でもね、たぶん大丈夫。過去も、饂飩くん(21歳)、松木君(仮名、19歳)というニューフェースが入りましたが、彼ら、サラダ場やデザートを担当して立派に調理やってるしね。あたしの大事な(唯一の)仕事、野菜の串打ちを他の誰かが担当する気配は微塵もない。今回も大丈夫。心配ない。案ずるな富士子。

 

ま、そう自分に言い聞かせて、アントニオ(推定26歳)の動向を見守ったわけですが。

なんと彼は調理経験者らしくって、いきなり刺し場に入って、カッチョ良く白髪ねぎ作ってました。いきなりセンター。4番打者。わーお!

 

そういうわけで、今回も、クビではなさそうです。あーよかった。ま、良く考えたら、あたし、そもそもベンチにいるのかどうかも定かじゃなかった。思いっきり戦力外。そこって、けっこう安全地帯なのかもしれないわね。クビになった会社では、それなりのポジション…ってわけでもないけど、「あいつさえいなければ」って思われる程度には、幅を利かせちゃってたから。だからこそ、大鉈振るわれて追い出されちゃったわけで。その点、今の厨房バイトは、「あ、あのおばちゃん?いいんじゃない、いても」っていう暖かいまなざしで見てもらってる(と思う)。

ありがとう料理長(かっこいい)。ありがとう、みんな。



とはいえ、ね。あたしも迷うときはあるわけ。

やったこともない、右も左もわからない厨房のバイトやってるとさ。

しかも、若い子ばっかりの中にいるとさ。

先が見えない不安、期待されない失望、若い人についていけない無力感……いろんなものが襲いかかってきて、眠れない夜がたくさんある。

どうするの、これから? このまま、ずーっと、椎茸を串に刺して生きていくの? 誰かの役に立ってるとか、誰かとつながってる実感を持ててる? 本当に必要とされてるの? みんなが成長していくのをただ眺めて、自分は何もできないまま年を取って、それでいいの?クビにおびえて、ビクビクして、しかも居酒屋の厨房のパートのおばちゃんやってるんです、なんて本当に満足なの?

もっと、時給も世間体も良い職場に変わるのはどう? 先がないのは同じとしても、せめて、お金と見栄が満たされれば、人にも笑われないし不安はまぎれるよ…。

 

そんなことを考えてると、丑三つ時を過ぎちゃう。

 

でもね、やっぱりね。

あたしは、今の厨房にいたいよ。美しい大根のつまを作る料理長(かっこいい)とか、心優しい大久保くん(仮名、24歳)とか、金髪で怖いけど仕事が速い天使くん(33歳)とか、指示が細かいけどいつもフォローしてくれるルドルフ先輩(38歳)とか、やっぱり、厨房のみんなが好きだし。

 

厨房では、毎日たくさんのお料理が出来上がっていくの。

サラダの野菜が水を張ったボールに浮かんでて、大きな肉の塊からタンやハツが切り出されて、真っ白い大根に包丁が入って透き通るような薄さにむかれていって、丁寧にした処理した海老が湯葉にくるまれてバットに並んでて、ゆっくり煮込まれたばら肉がつやつや光って八角の香りをさせていて、たまご色のクリームがふるふるのババロアに仕上がっていく。

キッチン男子たちが、魔法みたいに料理をこしらえていく様子が、やっぱり大好き。



高い時給じゃないけど、世間体悪いかもしれないけど、やっぱり、厨房にいたい。

こんなにみんなのことが、みんなが料理をしているのが好きになるなんて思わなかった。

これってさ、ものすごいことじゃない?

大好きなものと出会ったのよ。45歳にもなって。思いがけず。

そういうものは、手放しちゃいけないと思うの。きっと、あたしにとって、あたしの人生にとって、すごく大事なものなのよ!何がどう大事なのか、なんで大事なのか、今はわからないけど、続けていけばきっとわかると思う。時給だとか世間体だとか、そんなことで手放したら、これから先も、お金と見栄で自分を納得させる人生になっちゃう。今は、大事に思うものを、精一杯大事にしていくわ。

 

ありがとうアントニオ(推定26歳)!

クビになるかと怯えたのがきっかけで、色々考えることができたよ。厨房のパートのおばちゃんとして、がんばる気持ちがみなぎってきた!明日もよろしくね。

 

今月は、一日も休まないで働くよー。

ホントにクビにならないよう、がんばらなきゃっ。