裏の厨房で反省してます

許して キッチン男子

おばさんバイトの居場所は、暗いです。いろんな意味で。

居酒屋厨房で、野菜を串に刺すバイトやってます。富士子(45歳)です。

 

これね、一般的には「串打ち」って言うらしいの。焼き鳥屋さんなら鳥を串に刺すわけで、けっこう重要セクションらしい。あたしのバイト先も、レバーや牛ヒレの串打ちはあるんだけどね…。あたしが下手すぎて、あまり任せてもらえない。トホホー。

 

バイト始めて知ったんですが、厨房って、作業の分担と場所が決まってるんです。サラダやデザートを担当する「サラダ場」、肉や野菜を切る「刺し場」、火を使う「焼き場」「揚げ場」ってな感じで。それぞれのお店によって、細かい分担は違ってきます。

 

では問題!

あたしのバイト先で、野菜を串に刺すのは、なに場、と言われてるでしょうか!

 

答えは、「そんなの、ない!」です。

 

 

キッチン男子たちはね、厨房で仕事してるんですよ、当然。

料理長(かっこいい)は、「裏」と呼ばれる奥の院にいることが多いです。ここはね、流し&まな板&ガスコンロ&フライヤーをいっぺんに使える場所。しかも、調味料やボールやバットもすぐそば、っていう、まさにキッチン番長にふさわしい玉座。

他のキッチン男子たちも、ローテーション組んで、厨房内を順繰りに仕事してます。

 

で、野菜の串打ち係・富士子(45歳)の定位置はどこかっていうと!

 

お店のカウンター席です。厨房の外の。

「なに場」とか、そういう名称は、ないです。 ええ、はい、ありません。



まあねー。人目もないし、気楽なんだけどねー。

キッチン男子たちが、作業の合間に一服するのも、カウンターなんだよね。カウンターの内側、すなわちお店の人が料理を運んでくる側に、あたしがいる。カウンターの外側、お客さんが座る席で、キッチン男子が休憩する。

 

つまりね、あたしが立って獅子唐のヘタを外してる目の前で、金髪の天使くん(33歳)が、座って缶コーヒー飲んでタバコ吸ってるわけ。

いや、それ自体はいいのよ。あたしが立ってて、天使くんが座ってるのはもちろん気にならないの。気になるのはね、天使くんの視界に、富士子が入っていないんじゃないか?ってことなの。

なんかこう、空気みたいに思われてるんじゃないか? 

だってね、普通に、独り言言ったり、ため息ついたりするのよ、天使くん。肩をすくめて「さみーなー、もう!」とか。スマホいじって「やべっ」とか。こっちはおばちゃんだからさ、当然、「寒いですよね」とか「大丈夫ですか」とか言うじゃん。すっとさ、「あ、気にしないでください」って返してくるのよ。ちょっと、どういうこと? 

誰だってね、目の前でそんなこと言われたら、気になるっつーの!

もうね、最近はね、自分から、気配を消すようにしてる。富士子を見ようと思っても見えない!ってくらい、気配を出さずにやってる。おばちゃんの、ささやかなレジスタンスなんだけどね、当然、誰も気がついてないです。



それからね。

カウンター席は、デート仕様になってて、照明が暗いのよね。しかも、作業は営業前だから、最低限の灯りしかつけてないわけ。

富士子(45歳)はね、初めて言うけどね、老眼けっこう来てる。文庫本はちょっとつらい。獅子唐を串に刺す、って、もう、視力ギリギリなんですよ。玄界灘ですよ。

なら老眼鏡かけりゃあいいじゃん、って、あなた。できませんよ、そんなこと。キッチン男子たちとの世代の差を、「最大限、最小と思わせたい」と日々努力してるっつーのにね。水の泡じゃないですか。

もうね、「じっと目を凝らして、焦点を合わせてから、あまり視点を変えることなく、一気に串に刺す!」って技を編み出して、毎日乗り切ってます。串打ちよりも、「焦点を合わせる」ってのがすごい上達してます。



あああ。

あたしもね、いつの日か、「なんとか場」に立ってみたい…

シフト表みて、「あ、あたし今日、サラダ場なんで」とか言ってみたい…

「一息入れるか」なんつって、カウンターで缶コーヒー飲んでみたい…



いや、せめて…カウンターの電気をもっとつけて欲しいです。

 

 

さーて、明日はどんな一日になるかな。

バイトは11時から。がんばります!