裏の厨房で反省してます

許して アタシのでたらめ人生

おばさんバイトに、っていうか厨房に、春が来た!

 

新宿は、しとしと雨降り。

旅の余韻に浸る間もなく、バイトに明け暮れる富士子(45歳)です。

 

春ですよ!

雨が降ってるし、寒いし、花粉飛びまくりですけど、春が来ました。

なんのことかって言うとね…。

 

この前、仕事が終わって「さあ、お着替えして帰るべー」って、屋上に上がったら。

(ちなみに、更衣室や冷蔵庫や製氷機は屋上にある)

製氷機の前に、どどーんと、寸胴鍋が置いてありました。

 

何これ?

さっきまで、料理長(かっこいい)が厨房で使ってた寸胴じゃん。

しきりに、あくを掬ってたよ、確か。

触ってみると、まだ温かい。

なんでこんなところにあるの?

 

って、ふたを開けてのぞいたら!

ふんわり、サツマイモみたいな匂いがして……泡の中になんかある。

指でつついてみたら、筍ちゃんがユラユラしてました。

そばには、赤みも鮮やかな鷹の爪が浮かんでる。

 

うわあ!筍!

春だわ、春なんだわ!

もうそんな季節なのねー!日本は!(と、海外帰りをアピール)

 

あたしも、自分で筍を茹でたことがあったな。

お風呂のないアパートに住んでたとき、二階のおばちゃんがくれたんだっけ。

生の筍なんて、どうしていいかわかんなくて、おばちゃんに教わったんだっけ。

そうそう、こうやって、時間をかけて茹でて、一晩置いてえぐみを取るんだよね。

木造アパートは寒くって、筍を茹でてると段々暖かくなってきて嬉しかったのを覚えてる。

 

そんなことを思い出しながら、お鍋を抱きしめて、手のひらをあっためた。

そしたら、無性に嬉しくなっちゃった。

 

いえーい!

あったかい。春だ!

筍、美味しそう。ってか、絶対美味しい。

これ、どうするんだろう? どんな美味しいものになるんだろう…

気になる!

 

興奮冷めやらぬまま、着替えて、一階に下りて、料理長(かっこいい)に、

「あれ、筍ですよね!?」

って聞いてみた。

 

厨房の外のカウンターに座って、スマホをいじっていた料理長は、

「ああ、冷ましてるんですよ。」って言ったあと、あたしの顔をちょっと眺めて、

「なんですか?」って、超怪訝そうに聞いてきた。

 

しまった。

あたしったら、自分の興奮ペースのまま、空気を読まず振舞っちゃった。

おばさんがズンズン近づいてきて真顔で「あれ筍ですか」っていきなり聞いたら、

誰でも超怪訝な顔をするよね。ってか、怖いよね、普通。

 

「え? あ、いえ…」ってしどろもどろになってたら、

「いいですよ、2~3本持って帰っても」と、料理長。

 

え! マジで? くれるの? くれちゃうの、茹でたての筍?

んもー、かっこよすぎ、料理長っ。惚れてまうやんかー!!

 

って思ったけど、そこは、あたしも大人の女性ですから、

「あ、いえいえ、そういうことじゃないんです。春だなー、って思って嬉しくて!」

と、ぶりっ子風味の余裕をかまして、遠慮しておきました。

 

っつーかさ。

よっぽど物欲し気な顔つきしてたのね……あたし。

料理長、おばさんの迫力が怖くて「持って帰っていいですよ」って言ったのかもね…。

 

まあ、それはさておき。

 

「筍、何になるんですか?」って聞いたら、

「サラダです」だって。

 

えええっ? ちょっと意外。

風味を生かしたお浸し系かと思った。

どんなサラダ? 何サラダ?

きっと春っぽいお料理よね? なになに、一体?

 

って思ったけど、興奮しすぎて詰問口調になっちゃいそうなのが自分でもわかったので、質問はやめておきました。

 

「嬉しいー!たけのこ!

いや、食べたいとか欲しいっていう意味じゃなくて、春だなーって嬉しくて!」

 

と、再度、「物欲しくて言ってるんじゃないですよ」アピールをして、

「おつかれさまですー」って、帰ってきました。

 

翌日、八百屋さんが持ってきたお野菜には、スナップ豌豆やインゲンが。

そして、金髪のキッチン男子・天使くんは、大振りな鯛をさばいていました。

「お刺身の魚が、鯛に変わったんですよ」だって。

わーお!

 

春ですよー!

厨房には春が来てます。

厨房で働くあたしにも。

なんか、ワクワクしちゃうねっ!

筍が、一体どんなサラダになるのか、乞うご期待。

 

明日から、お仕事頑張っちゃうぞー。