おばさんバイトの分際でちょっとキレちゃって、反省
居酒屋厨房の、できの悪いおばさんバイト富士子(45歳)です。
同じことを何度も言われたり、間違えたり、忘れたり、とキッチン男子に迷惑かけまくりの毎日を過ごしてます。
若い人ばっかりの職場に、ただ一人のおばさんバイト(しかも未経験)なので、当初から、物覚えや手際の悪さに負い目引け目があったのですが…。
実は、とある先輩に、初日からダメ出しを連発されちゃっててねー。「あーあ」とか、「そーやっちゃったんですか」とか、「んー、まあしょうがないですね」とか、軽い舌打ちとか。そもそも負い目があったところに、ズバリと刺さる痛いダメ出し。あたしの察しが悪いからダメなんだな…と反省して、色々先回りしたつもりでも、結局はやり直しになったりして。あたしってダメ人間なんだなぁ、とずっと心苦しく思っていました。
が、しかし。そのうち、
「前はダメって言ったのに、今回はイイの?」とか、
「前はイイって言ったのに、今回はダメなの?」とか、
「今になって、こうすれば良かったのに、とか言われても」とか…。
先輩にそう思っちゃう場面が増えてきてですね…。日が経つにつれ、だんだん感じるようになったんですよ。「このダメ出しって、仕事のルールにのっとってるんじゃなくて、先輩の単なる個人的なこだわりなんじゃ…」と。
こうなると、どうしていいのかわからない。
あたしの物覚えが悪さを、先輩だって我慢してくれてると思う。でも、本当に仕事上必要なのかわからない、個人的なこだわりや好みで追い詰められるのは、あたしだって辛い。料理長(かっこいい)に相談しようか迷ったけど、文句つけてるみたいに思われたら嫌だしなあ…。
二ヶ月目にしてちょっと行き詰ってしまいました。
そんなある日。
串焼き用の串を補充するって、いう仕事で、例によって、先輩からダメ出しを頂きまして。それが、普通のダメ出しじゃなかった。補充してる真っ最中に、「もうやらなくていいから」と交代させられちゃった。もう、テポドン級のダメ出し。ダメっていうより、クビ? でもさ、あたし、そんな致命的な間違いはしていないと思うんだけど…。そうだとしてもさ、ちょっとさ、もっとやりようがあるんじゃないのー。
という、反発心がムクムク沸いてきちゃいましてね。
憮然として、獅子唐を串に刺してたんですけど、ちょっと我慢できなくなりまして。
ちょうど目の前で、金髪の天使くん(33歳)が缶コーヒー飲みながらタバコ吸って休憩してたのね。
「あたし、何か変なことやりました? 何ですか、あれ」
っつって、ちょっとキレ気味に聞いちゃったの。
もう、顔つきがグレてるのが、自分でもわかった。
そしたら、天使くん、
「え? 俺わかんないっす。」
っつーから、
「ああやって、やってた仕事を直されるの、一度や二度じゃないんですけど。何なんですか一体。」
って、重ねて言っちゃったのよね。
天使くん、訳がわかったみたいで、
「あーあ。先輩、自分の好きなやり方があるんじゃないっすか。そんだけっすよ。あ、俺は、ぜんぜん大丈夫っすよ、富士子さんのやり方で。俺は大丈夫なんで。」
って、タバコ持った手をぶんぶん振りながら言ってくれたんだけど。
それが、えらくビビッてる感じでね。
天使くん(33歳)ってね、金髪に染めてて、耳にも眉にも、いくつもピアスつけててね。あたしはずっと「この人怖いわ…」と思ってたんだけどね。
こんときばかりは、あたしのほうがずっと怖かったみたい…。
まあ、結論から言うと、その日は年明けにつき食材不足で、先輩も大変だったので自分のやり方で全部進めないと不安だったみたいです。
それにしても、後味が悪くてねー。
天使くん、っていうベテランの先輩に毒を吐いちゃうなんて。しかも、彼は私より一回りも年下。そんな相手に、不満ぶちまけないでしょ、普通。そりゃマズイっしょ。
翌日、料理長(かっこいい)に、正直に申し出ました。
「昨日、先輩のことでキレちゃって、天使くんに八つ当たりしちゃいました」って。
そしたら、
「聞きましたよ。先輩くん、もともとああいう奴だから、気にしないでください」
だって!
天使くんまで、
「あの先輩のことは、誰もが乗り越えてきたんですよ。大丈夫ですよ」
って励ましてくれたんだけど!
なんだー
やっぱり、もともと、そういうとこ、あったんじゃーん
みんなわかってたんじゃーん 早く言ってよー
ずっと困ってたんだよー、うえーん!!
ってことで。
あたしが、物覚えも手際も悪くて、みんなに迷惑かけているのは間違いないのですが、先輩のことで必要以上に悩むことはない、ってことが明らかになりました。
先輩は、すごく真面目で正直で、ちょっと、自分のやり方を大事にする&不安になりやすい。そんだけ。決して意地悪ってわけじゃない。
料理長や天使くんと話して、ほっと一安心。しかも二人ともすごく励ましてくれました。
今回のことで、衝撃的だったのは…。
料理長(かっこいい)が、
「先輩くんのことで、富士子さんに迷惑かけて申し訳ないです」
と、言ってくれたことです。
ちょっと耳を疑いました。
あたしみたいな出来損ないのおばちゃんバイトに、ちゃんと礼を尽くしてくれてる。
気持ちを慰撫してくれている。
そしてなにより、先輩をちゃんと庇ってる。
なんて大人なんだろう。
ちょっとでもキレちゃった自分の子どもっぽさが、ものすごく恥ずかしい。
あたしが会社員で部下がいた頃…。
あたしは料理長みたいじゃなかった。
あたしに後輩がいた頃…。
あたしは、天使くんみたいじゃなかった。
もっともっと、ちっちゃいせこい奴だった。(今もだけど)
そう思うと、、胸を抉られるような気持ちになる。
あああ。
あたしも、いつか、料理長みたいになれたらいいな。
色々あるのを飲み込んで、何もないかのように、きれいで美味しい料理を作っていく。
そんなふうに、強く優しくなれたらいいなあ。
ってか、もっと大人になれ、富士子。いろいろ反省しとけ!
さーて。明日はどんなことで反省会かな。
何があっても、七転び八起きだ!