金髪のキッチン男子、天使くんの魅力
新宿は雪が降りました。寒いッス!
居酒屋でバイトしてる富士子(45歳)です。
厨房では、ダントツの最年長。孤高の一匹狼(牝)。
他のキッチン男子は、20~30代ですから、富士子は浮きまくりの毎日なのですが、
最近、ほんのちょっとね、みんなと馴染んできた感があります。
とりわけ嬉しいのはね…。
金髪のキッチン男子・天使くん(33歳)と、普通に喋れるようになってきたこと!
彼の人となりが、わかってきたことです。
彼はね、単に金髪ってだけじゃない。耳にも眉間にもピアスしてる。
初めて会ったときは「怖いよーっ」って思いました。→ 金髪で怖いキッチン男子
天使くん、興味のないことにはまるっきり無反応で、当然あたしのことは眼中にない。
最初の二ヶ月間は、口を利くどころか、目すら合わせてもらえませんでした。マジで。
あたしは、恐怖のあまり、極力目立たないように息をひそめ、咳もクシャミも我慢して、気配を消して、エラ呼吸してました。マジで!
当時の、気の毒な富士子の様子は → おばさんの居場所は暗い
しかし!
ある事件がきっかけで、空気が変わった!
些細なことであたしがキレて、たまたまその場にいた天使くんに、八つ当たりしちゃった…っていう、ダサい事件。→ キレちゃって反省
あんだけ怖いと思っていた天使くんに、なんで八つ当たりなんていう暴挙に出たのか、自分でも自分の心境を理解しかねますが、なぜかそれ以降、天使くんがフレンドリーに変身。
「あんとき、富士子さん、面白かったッスよー」
なんて、笑顔で言ってくれるまでになりました。
おばちゃんがキレる様子が、よっぽど楽しかったみたいです。
珍獣扱いされている気が、しないでもありませんが、まあ、喜んで頂けて良かった。
天使くん(33歳)、実は猛烈に仕事ができる人です。
料理長(かっこいい)も頼りにしている。
しかも、よく見りゃイケメン。
怖いと怯えつつも、おばちゃんは興味しんしんで、こっそり彼の様子を伺って、勝手にプロファイリングなどしていたのですが、最近の雑談トークで、彼のミステリーな魅力が明らかになってきました!
あたしが最初に注目したのは、彼の超絶リズミカルでかっこいい包丁さばき。
観察していると、身のこなし全般が、無駄がなくて軽やかで、何かのビートやリズムが体に染み込んでいるような、野生的なところがあります。
これ、本当に普通の人と違ってる。何かがズバ抜けている。
聞いてみると…
案の定、彼は音楽をやっていました。
しかも、ピアノ以外の楽器なら、殆どこなせるんですってよ、奥さん!
実際、見ていればわかるのですが、楽器は相当やりこんでいるはずです。
で、問わず語りに聞いたところによると、ですな…。
20代の殆どを音楽で過ごした(らしい)。
仕事は、今の居酒屋さんが初めて(らしい)。
今のバイトは6年目くらい(らしい)。
33歳-6年=27歳
するってえと、27歳までのお仕事は…?
天使くんの才能を信じる、甲斐性のある恋人がいたらしいのよ、奥さん!!
わーお!
やるじゃん!
現在も、天使くんは彼女と一緒に暮らしています。
女性を渡り歩いた結果の最愛の彼女なのか、最初から寄り添ってくれた彼女なのか、
その辺は、これからリサーチしますけれどね(せんでいい)。
いずれにしてもですよ。
やっぱり、ただの怖い若者じゃなかったです、天使くん(33歳)。
音楽は、今はやっていない、って言ってた。
「音楽で食べていくのは難しいから、現実を受け入れないと…」って言ってた。
おばちゃんは、「そうなんですか…」としか、言えなかった。
情熱のやり場をどうしているのか、心の折り合いをどうつけたのか、
彼の見事な包丁を見ていると、どうしても音楽が聞こえてくる気がして、
切ない気持ちになってきます。
近寄りがたい影があったのは、色んなことがあったからなのかしらね。
真っ平らじゃない、夢も挫折もあった人生。
あたしは、前よりずっと、天使くんが好きになりました!
彼には、まだまだミステリーが残っていましてね。
名札に、「横浜暴走天使」って書き入れていることとか。
それを見て、あたしは「天使くん」ってこっそり呼んでるんですが、どこがどう天使なのか、全く持ってミステリーです。
その辺も、引き続きリサーチします!(せんでいい)
明日は土曜日! 宴会が多そうだわ。
仕込み頑張るぞー。
バイト、四ヶ月目!おばさんの欠点を反省、自分を褒めて励まして…
春はまだかなー。
新宿はまだまだ寒くて、ダウン着用率も6割を超えてます(富士子調べ)。
居酒屋厨房のバイトも、そろそろ四ヶ月目に入ります。
相変わらず仕事が遅いままですが、多少はスマートにこなせるようになった作業もある。
・野菜の串打ち
椎茸と獅子唐の串を作って、6号バットに収める。
これね、結構早くできるようになったよ!
・野菜のカットと串打ち
エリンギとアスパラとポロ葱。これらを包丁でカットしてから、串に刺す。
これは、まだまだ発展途上!
・イベリコ豚のカットと串打ち
カットはだいぶ上手になりました。パチパチパチ!
が、やっぱり40分もかかる。目標は……20分だな!
・ベーコンのカットと串打ち
これね、昨日、金髪のキッチン男子・天使くん(33歳)に教わりました。
頑張るぞっ!
・豚バラ肉のスモーク
毎回、10~20本のバラ肉串を、スモークチップで燻すんだけどね。
熱いし煙いし、どうしてもモタモタしちゃうの。
ルドルフ先輩(38歳)や、天使くん(33歳)、料理長(かっこいい)みたいに、
手早くできない…。もうちょっと、上達したいです。
いやー、振り返ってみると、たいしたことやってないね、ホント。
いかにもパートのおばちゃんの仕事、って感じの軽作業ばっかり。
それでもね、最初の頃に比べたら、ぐっと成長したよ!
よくやった、自分!
えらいぞ、富士子(45歳)!
大体から、45歳という年齢を考えてみて欲しい。
この年になってわかったけど、「新しいことを覚える」ってのが本当に出来ないの。
串焼きが売りのお店だから、肉と野菜合わせて15種類くらいの串があるんですが。
肉の串を見て、名前を言い当てられるようになるまで、二ヶ月かかった。
若い子は二週間で覚えられるけど、富士子は二ヶ月。4倍ですよ。
おまけに、「ダメな(おばさんな)自分を受け入れる」ってのも、出来なくてね。。。
「こんなハズじゃない!」(と、現実から目を背ける)
「前の仕事のときは、結構、いい線いってたのに」(と、過去を美化)
「包丁が、良く切れなかったせいだわ」(と、言い訳を探す)
もう、毎回、ジタバタしてました。(今もだけど)
そんなこんなのハンデを乗り越えて(まだ越えてないけど)、
この三ヶ月、ホント頑張った! いろいろ出来るようになったよ!
皆さん(特に若い方々)に聞いて欲しい。
おばさん(及びオッサン)が、スムースに自分の年齢を受け入れていると思ってはいけません。
外見の衰えは、覚悟できてるんですよ。皺だのシミだの白髪だの、見ればわかるから。
「できるはずのことが、思いの外出来なかった」っていう衰えは、思いがけずやってくるんです。全く覚悟なんかしてない。ノーチェック。当然、軽くパニックですよ。
殆どの中年が、人のせいにして言い訳を押し通して乗り切ってる(つもりになってる)と思いますよ。端から見ていると、相当見苦しいでしょう。腹立たしいとお感じのこともあるでしょう。「人のせいにして自分を省みない」って、おばさん(及びオッサン)の得意技ですもんね。
でもね、本当に「自分のせいとは思えない」っていう心境なんですよ、おばさんとしては。自分が衰えているせいだって、気がつかないんです。
だから、どうしても、ジタバタあがく。
しかも、この悪あがきって、数年単位で続くと思うのよね、恐ろしいことに。
っつってもね、これね、年をとったら、誰もが通る道だと思うわけ。
今は若いあなたにも、いつかは必ずやってくる、悪あがきシーズン。
ですからね、どうかその辺、温かく見守って欲しいです。
お願いします。
まあ、当面、あたしが心得ておくべきなのは、
「あたし、もうババアだから出来ないんだわ」
って、素直に現実を受け入れることだわね。
人一倍時間がかかってるんだから、できるようになっても誰も褒めてくれない。
でもね、それでいいのよ。気にしちゃダメよ、富士子(45歳)!
自分で自分の成長を祝って、黙って次に進むのよ!
バイト先のキッチン男子の皆様には、本当にご迷惑をおかけしております…。
すまん!許して!
明日は怒涛の金曜日。
バイトがんばりまーす。
憧れの料理長、競馬がお好き
居酒屋厨房で、野菜を串に刺している富士子(45歳)です。
仕事するとき、憧れの人がいると、張り合いが出ますよね。
いや、異性として、ってことじゃないです。仕事や人生の先輩として、って意味です。
あたしはね、「時給850円バイトで生きていく」っていう相当な崖っぷちを歩いてるおばさんですからね、もう、男性とか恋とかイケメンとか、うつつを抜かす余裕はありません。そんなん超えたところに、問題抱えてます。食べてけるのか、っつー問題をね。
仕事って、生活のためにするものですが、それだけだとモチベーションが続かないもんです。「もっと仕事ができるようになりたいな」とか「みんなと仲良く働きたいな」とか「頼りにされるように頑張ろう」とか、ささやかな願いや目標を持ってると、毎日の仕事もそれなりに楽しみになってきます。そんなときに、「こうありたい」と思える憧れの人がいると、ぐっと力も入ってくるってもんです。
崖っぷち人生まっしぐらの富士子(45歳)の憧れの人は…。
今までに、さんざん書き連ねてますけど…。
料理長(かっこいい)なんですよっ、奥さん!
料理長(かっこいい)のどこにどう憧れているのか、っていうのを掘り下げて見ようかと、ちょっと自分の心の扉を開いてみたのですが…。
あたしの人生に足りない部分とか、人格上の欠点とか、過去の職場での失敗の数々とか、思い出すのもおぞましいダークサイドに向き合うことになりそうなので、やめました。
実際、富士子が自分のブラックさに嫌気がさすと同時に、料理長に心の底から憧れた事件はこちら。 ちょっとキレちゃって反省
憧れの料理長(かっこいい)とは、毎日のようにバイト先で顔を合わせてるんですけど、実は、ちゃんとしゃべったことが殆どないです。仕事中に、さして雑談が出来るわけでもなく、仕事が終われば、すぐにまかないの時間。キッチン男子たちは、黙ってもくもくとお箸を動かし、食べ終えたらすぐにスマホでゲーム始めたりして、あまりおしゃべりはしません。あたしは、みんなのお皿を洗ったら、さっさと帰るだけです。
料理長(かっこいい)がどういう人なのかもっと知りたいけど、とりつくしまがない。
接点ゼロ。
毎日、接点ゼロ!
そんなパッとしない日々を送るうち、ふと思い出した。
去年の暮れ、料理長(かっこいい)がスポーツ新聞を広げてたことを。
「有馬記念」の予想をしていたことを!
何を隠そう、富士子(45歳)の実家は東京競馬場の近く。G1レースともなれば、パドックでサラブレッドを間近に見物し、レースのどよめきを体中で感じ、勝っても負けても気持ちよい興奮を味わう、っつー大人の娯楽を嗜んで育ちました。
以後、何度かブランクをはさみつつも、シーズンにはメインレースをチェキするのは、長年の慣わしとなっております。
ちなみに、あたしの去年の有馬記念ですが…。
日ごろから女子応援気質の富士子は、レースでも牝馬にテコ入れする傾向がありまして、ジェンティルドンナに一票入れて大当たり!
奇しくも、今回は彼女の引退レースでもありました。最後の疾走を、文字通り有終の美で飾ったベテランの彼女に、つい自分を重ねてしまい(図々しい)、表彰式のシーンでは思わず涙が出そうになりました。
1月に入って、ちょくちょく気になるレースが始まりましたが、小さいレースだと予想は難しい。その分、あーでもないこーでもない、と考えるのが楽しいわけで…。
チャンスですよ。これはチャンスですよ!奥さんっ
聞いてみましょうよ、料理長(かっこいい)に!
「フェアリーステークスって、やったりしますか?」
ちなみに、3歳牝馬のレースなんすけどね。
「え? 富士子さん、競馬やるんですか」
っつって、来そうな馬を教えてくれましたよ!
イエーイ!
それ以来。
時々、本当に時々だけど、レースの話をするようになりました!
二人とも、なかなか当たりませんけどね。
あたしは、馬が勝負をするレースそのものが好きなので、当たらなくても気にしません。100円単位でしか買わないしね。人気のない馬が思いがけず力走したり、地道に2着を繰り返す堅実な馬がいたり、ひっそりと引退する馬がいたり、そんな小さなドラマに胸が熱くなるのが、競馬の面白いところです。
どこまで楽しさを分かち合えるかわからないけど、料理長(かっこいい)と話が出来るのが単純に嬉しいです。わーい!
ただねー。「最初に出会った名馬」的な話をしてたときにねー。
「オグリキャップがちょうど活躍し始めて…」
ってあたしが言ったら、料理長がすかさず、
「それはさすがに知りませんね。俺は、ナリタブライアンですね」
って言いやがってねー。
ちょっとさー。
オグリとナリタブライアン、たいして時代違わない、っつーの!!
騎手だって、同じ南井でしょー!
オグリのちょっと後、ってだけじゃないの。知らない、ってことはないでしょうよ。
何なの、その「富士子さんとは世代が違いますね、やっぱ」みたいなコメントはっ!
って思ったけど、よく調べたら、6年くらい違ってた。
そもそも、料理長(かっこいい)は38歳と若いんだった。
従って、オグリキャップ登場時、彼はまだ小学生。
そりゃー、知らないや。
ギャフン!
ま、気を取り直して、次回、東京競馬場のクイーンカップをお楽しみに!
(これも牝馬レース)
明日もバイト頑張りまーす。
おばさんバイト、後輩のバックレにショック
居酒屋厨房バイトも3ヶ月目だっていうのに、未だに仕事が遅い富士子(45歳)です。
今日も今日とて、みんながまかないの準備してる中、一人、イベリコ豚と格闘していました。終わんないのよー。あたしだけ、終わんなかったのよー!
それでも、めげないよ。やればやっただけ、出来るようになるんだから!
今までだって、がんばったんだから!
あたしの後輩のキッチン男子、饂飩くん(21歳)。
野菜を串に刺すのを手伝ってくれて、おしゃべりを楽しんだ仲ですが…。
どうやら辞めちゃうみたいなのです。
先日、まさかの無断欠勤をして、それ以来、姿を見せないみたいなのです。
いわゆるバックレってやつ?
あたしが働き始めてから、すでに二人目です、バックレくん。
おばちゃんは、本当にビックリだよー!なんで、無断で辞めちゃうの?会社員時代には、そんな人一人もいなかったよ。
で、色々調べたのですが、意外と多いみたいね。バイトのバックレ。居酒屋は特に。
あたしのバイト先のバックレくんについて、ちょっと振り返ってみた。
一人目のバックレくん(以下、林檎くん)と、饂飩くん(21歳)に、共通点がありました。
・バイトをかけもちしてる
・やりたいこと(夢)がある
・地方出身で一人暮らし
「バイトかけもち」ですが、林檎くんは、キャバクラのボーイ、饂飩くんは別の居酒屋でも働いていました。
「夢」は、音楽をやること、って言ってた。そのために、東京に来た、って。
でもって、二人とも、申し合わせたように、いつも「眠い」って言ってた。
「働きすぎじゃない?」って聞くと、「金がないっすよ、バイトしないと」って答えてた。もちろん、友達と飲み会やったり遊んでる様子だったし、睡眠時間を削って働きづめ、ってことじゃないと思うけど、余裕がなさそうな感じは強かった。これは、二人に共通した印象。
他のキッチン男子たち、天使くん(33歳)&大久保くん(仮名・24歳)も、やりたいことがあって、地方から出てきて頑張ってる。そこは、バックレた二人と同じ。
天使くんも大久保くんも、疲れて眠そうなことはある。でも、「眠い?」とか「大丈夫ですか?」って聞くと、「眠くないっす!」「大丈夫っす!」って答える。その辺は「仕事に差し障りはありませんから」っていう、意地みたいなものがあるんだと思う。意地を張るだけの、余裕があるっていうかね。
その点、バックレた二人は、ちょっと違ってた気がする…。
仕事に対しても、意地を持っている、って大事だと思うなあ。
東京で夢を追って暮らしていく、って、大変なことだと思う。
ただでさえ、がむしゃらに働かないと生活していけないんだから、夢を追うなら、なおこと。世の中では、「女性の力を活用しよう!」とか言って、主婦業と仕事の両立を、国を挙げてサポートしようって雰囲気になってるけど、同じ文脈で言えば、「若者の力を活用しよう!」ってことで、自活と夢の実現の両立を国がサポートする、なんてことがないと、とうてい両立は無理なんじゃないか、とすら思う。
だって、この不景気。
若者の労働力をひたすら消耗して、育てるってことをしない会社がたくさんあるんだもの。経験を積んで、次の仕事のステップアップにつながるような働き方を心がけないと、うかうかしてたら、日銭を稼ぐのが精一杯の使い捨て人材になっちゃう。
何かしら技術を身につけて、食べていくだけのスキルを経験として学ばないと、いつまでも自転車操業の、その日暮らし生活から抜け出せない。
だから、仕事に対しても、夢と同じくらい、意地を持って取り組まないと!
おばちゃんはねー。
やっぱり古い人間だからね。バックレは良くないと思うよ。余裕をなくした挙句、うっかり寝過ごしたり、仕事が面倒くさくなったり、ってことはあると思う。連絡し損ねて無断欠勤、ってことだって、あると思う。一度やっちゃうと、また連絡するのが億劫になるし、謝るのもかったるいし、もうどうにでもなれ、って思っちゃうのかもしれないけど、それでも、そのままバックレ、は良くないよ!
もちろん、ノルマがあるとか、休ませてもらえないとか、労働基準法違反じゃね?って事が続くなら、辞めることをおススメします。「辞めます」って一言言って、しつこく慰留されても頑として断って、次を探したほうがいいと思う。
でもね…。
林檎くんと、饂飩くんには言いたい…。
あたしのバイト先、そんなに悪い職場じゃないと思うよ。あたしみたいな、出来損ないですら、何とか育てようと長い眼で見てくれてるくらいだもん。意外と本格的に手作りしているお店だから、技術も身に付くし、段取りも覚えるし、しっかり働いて調理経験をつめば、次の職場で生かすことだってできるはず。
あたしは本当に残念だよ…寂しいなー。
特に、饂飩くん(21歳)とは、よくおしゃべりしたからね。頑張ってねーって、心の中で応援してたからね。「音楽やるなら、アレサ・フランクリンのボーカルは聴いといた方がいい!」って、CD作るつもりでいたからね、おばちゃん。勝手なお節介なんだけどね。
バックレって、やったことないからわかんないけど、「まだまだ自分には将来も可能性もある」っていう自信があるから出来るんだろうなあ。「ここがダメでも他がある」って思えるというか。あたしには、とてもそんな自信はないよ。頑張って働いた自分を無駄にしたくないし、バックレたら勿体無い、って思っちゃう。石にかじりついてでも、ここでの経験を生かそう、って考えちゃう。
ようするに。
バックレっていう選択肢はないわけです、あたしにゃ。そもそも、「採用」のありがたみが違うからね、彼らとは。必死ですよ、必死。背水の陣ですよ、こちとら。
あれ? あたし、彼らの若さに嫉妬してる? あらー?そういうこと?
ちょっと、意外な方向になってきたわ。
深く考察したいところですが、おなかが空いたのでご飯作ります。
ホント、夢を抱いて上京してきた若者にはバイト生活は相当キツイと思うけど、バイトとは言え仕事なんだから、夢と同じくらい、バイトも大事にしてほしいです。ないがしろにしちゃ、ダメよ!ダメダメ!
この土日も、バイトだー!
のろまの富士子だって、やればやっただけ、できるようになるんだから。
将来がなくたって、めげないぞー!
饂飩くーん!
どこでどうしてるのかわかんないけど、がんばるんだよー!
体を大事にしてね。
林檎くんも、風邪ひいたりしないでね。
イベリコ豚のカットができません…。
寒いですね!
新宿は、粉雪がちらつきました。
そんな日は、さすがに客足も鈍い…と思いきや、まさかの宴会45名の予約。
串の準備に、時間かかりまくり!
あたしの苦手な作業はたくさんあるのですが、今、最もホットな下手くそ作業はイベリコ豚のカットです。イタリアの高級黒豚、イベリコ豚。これを串に刺して、炭火でじっくり焼くと、めちゃめちゃ美味しい! その名も「極上豚トロ」。
そんな高級食材だっつーのに。
あたしがカットすると、歪なこと、この上ない。どうもねー、カットする向きが間違ってるみたいなのよねー。ルドルフ先輩(38歳)や天使くん(33歳)、料理長(かっこいい)は、手早く均一なサイズにカットして、串打ちもちゃちゃっと済ませちゃうのに、あたしがやると、軽く一時間かかる上に、大きさがバラバラ。何度も教わってるんだけど、なぜか同じ具合にならないの。悲惨。
今日は一段と悲惨だった…。
前回、イベリコ豚カットを担当したのは、料理長(かっこいい)。
その串をお手本としてまな板に出し、何とか近づけようとする富士子(45歳)。
ひとまず、規定量の半分に着手。お手本の大きさにカットはできたけど…。肉の断面図が違ってる。料理長がカットしたのは、肉の繊維を断ち切るような断面なのに、あたしがカットしたのは、肉の繊維に沿った断面になってる。やっぱり、包丁を入れる向きが違ってるに違いない。イカン、このままでは!
残りの半量は、正しくカットしなきゃ!
その前に、断面図が違うお肉をどうしよう…。仕方ない、このまま串に刺していくしかない。仕上がりや味には差し障りないので、お客様にご迷惑ってことはないんだけど…。焼き場担当のキッチン男子は、焼きの調子を変えなきゃならないらしく、大変らしい…。ううう、ごめんなさい。
気を取り直して、残り半量の、肉の繊維の向きを観察する富士子(45歳)。
えっと、最初はまっすぐ包丁を入れて、次は斜めに入れるから、えっと、こっち向きでいいのかな? え? これでお手本どおりになる? ならない気がする…?!
と自問自答していたら。
心優しいキッチン男子大久保くん(24歳)が通りかかり、
「富士子さん!どうしたんですか、固まって!」
「いや、ちょっと、向きがわかんなくなっちゃって…」
「うーん、僕もだいぶ前に一度やっただけだから、わからないけど…
向きも大事だけど、大きさをもっと同じにして、きれいに刺していくといいですよ」
と、カットではなく串打ちについて、的確この上ないアドバイスをくれました。
「おっしゃる通り。もっと大きさを揃えなきゃ!」
ってんで、カットはひとまず保留にして、串打ちを手直し。
大き過ぎる部分は切り落とし、小さ過ぎる部分は取り除く。
あれ? 結構、お肉が無駄になった? 高級食材なのに…ごめんなさい。
「ま、とにかく、先に進まなきゃ!」
ってんで、大き目の肉が4つ刺さった串と、小さめの肉が6個刺さった串が混在しちゃったけど、1本あたりの肉は35グラム、ってのは死守して、いよいよ、残り半量のカットへ。
「今度こそ、正確にやるわ!」
ってんで、またまたそばを通りかかったルドルフ先輩(38歳)に、
「すみません、助けて下さい。向きを教えて下さい」ってSOSを出したのですが…。
肉を見て一言。
「ああ……。いいですよ、もう。そのまま置いといてください。」
がびーん!教えてもらえない!
って、もう、何度も教わってるしね…。何回やらせんだ、って話でね…。
で、でも、一応頑張ったアピール、って感じで、
「あ、あの、一応、料理長のやったのをお手本に、やってはみたんですが…」
と言い訳がましく言ったところ…。
「それ、イベリコ豚じゃないですよ。違う串です」
が、がびーん!!
確かに!違う! 国産豚の串だったー!
料理長がやった串でもなかった…。
もうね…。
串さえ覚えらんないのか、ってね…。
違うもんをお手本にしてどーする、ってね…。
そもそも、何度教わってもできない、って、一体どうなってるんだか、自分でも情けないのを通り越して、もはや痛々しい。
あたしの心にも、雪が降りました。
身も心も寒いです。
ヒュウー。
残り半量のイベリコ豚を冷蔵庫にしまい、スゴスゴとまな板を片付ける間に、とっくに仕事を終えていた他のキッチン男子たちは、もうまかないを食べ始めてました。
ルドルフ先輩(38歳)は、あたしが終わるまで、食べずに待ってくれました。
すみませんです…。ありがとうございます。
ホントに、ごめんなさい。
料理長(かっこいい)が、お休みだったのがせめてもの救いです。
あの場に料理長がいたら、居たたまれなかった。
穴があったら入りたい。ってか、自分で穴を掘って入りたい。
明日もがんばらなくっちゃ。
がんばれる気が全然しないけど、がんばらなくちゃ!
行け!富士子(45歳)!落ち込んでるヒマはない。
七転び八起きだ。今年の目標だ!
おばさんバイト、お邪魔だった。でもスモーク頑張ります。
今日も冷えますね。
手のひらにやけどをした富士子(45歳)です。
バイト先の居酒屋さんの厨房で、スモークチップを使ってます。
豚ばら肉の串を、スモークチップで燻すのが、あたしの仕事のひとつ。
この作業ね、ほんっと、てこずるのよ!
・ばら肉をカットして串状に整える。← よく切れない
・網に乗せておく ← 向きとかあるから注意
・スモークチップを棚から出す ← 届かない。こっそりレンジ台を踏み台にする
・フライパンでスモークチップを燻す ← ガスの火力が強くてマジ怖い
・煙が出てきたら、バラ肉串が乗った網をのせる ← 熱い
・ふたをしてタイマー3分セット ← 油で指が滑ってボタンが押しづらい
・ピピピピッ!と鳴ったら、串を裏返してまた3分 ← 超熱い、超煙い
・またピピピが鳴ったら火を止めて取り皿にとる ← 熱い、油で滑って落としそう
・フライパンを洗う ← 熱すぎて、水につけると異常な爆音と煙
ふー。
どの段階でも気が抜けないという、非常に緊張度の高いミッション。
ミスを防ぐべく、次の作業を、いちいち確認しながら進めます。
が、これが、端から聞いてると、うっとおしい独り言みたいなの。
「フライパン…と」 ← フライパンを下ろす間、アントニオは包丁持ったままフリーズ
「網を出す、と」 ← ルドルフ先輩(38歳)が道をあけてくれる
「次はチャッカマン、と」 ← 大久保くん(仮名)が出してくれる
ミス防止の声出し確認のつもりが、キッチン男子に指示出しになっちゃっててね。
最近は、できるだけ、心の中で言うようにしてる。
それでも、仕込中の多忙な厨房では、あたしは相当お邪魔らしくてね。
料理長(かっこいい)に、「もっと空いている時間帯に済ませて下さい」って言われちゃった。「富士子さん、始める時間がいつも遅すぎます」だって。
あらー。全然気がつかなかった…。だって、早い時間は別のフロアで串の補充してるんだもん…。って、言い訳です。ううう、ごめんなさい。そんなに迷惑だったなんて気がついていませんでした。
そもそも。
ガス台周辺は、料理長(かっこいい)の作業スペースだったりするので、あたしの右往左往に、他のキッチン男子たちもうっすらと緊張してたらしい。
(り、料理長の邪魔してるよ、おばちゃんが!)
という、沈黙の大合唱が、毎回鳴り響いていたらしい。
空いている時間、っていうのは、料理長(かっこいい)が冷蔵庫に食材チェキに行っている時間帯のことです。デザート担当男子も、その間に湯煎などを済ませていたらしいのです。料理長や先輩方の迷惑にならないように。
いやあ…。
本当に、ごめんなさい。
まったく気がついていなかったです、自分のことで頭がいっぱいで。
そんなことがあってから、余計、緊張度がUPしたスモーク作業。
昨日は、とうとう、フライパンを熱しすぎて、右手を火傷しました。
鍋つかみを使ってたのに!
鍋つかみの、織りの模様どおりに、火傷跡になったのよ。
しかもね、火傷って赤くなるのかと思ってたら、茶色になってた。
もうね、これ焦げ目よ。右手に、焦げ目ができてるの。美味しそうなくらいよ。
ルドルフ先輩(38歳)には、「ガスの火が強すぎるからです」って怒られたわ…。
あたしが、そんな思いをして毎回作ってる「ばら肉串のスモーク」ですが。
これね、本当に超美味しい!
ばら肉のジューシーな油に、香ばしい匂いがしみこんで、がぶっと齧るとのどの奥に香りが広がるの。これがあると、ビールも焼酎も、旨さ倍増するから不思議。もちろん、ご飯にもぴったり。
みんな是非、チェケラー!
今日も張り切って、スモーキングしてきまーす。
そろそろお給料だわ!ってことで、時給の話
銀行口座の残高が、非常にピンチ!
ってことが昨日わかった、富士子45歳の春だから。(C)「天才バカボン」のED曲
今日、料理長(かっこいい)から給料明細をもらいました。
これって、もうすぐバイト代が振り込まれる、っていうお告げです。
ふう、一息つける…。 よかったです。
飲食業はブラック会社が多いっていいますが、あたしのバイト先はそうでもない。
ただ「バイトの募集記事と実情が違う」って部分が、なかったわけじゃないです。
だってね、ネットで募集記事を見たときには、「時給1100円~」って書いてあったのよ。
950円~や、1000円~が多い中では、ちょっと目立ってた。
あたしも当然、この時給にホイホイ釣られて、検討リストに入れました。
が、実際に面接に行ってみると!
1100円が支給されるのは夜の時間帯だけで、昼間は950円~1000円でした。
だったらさー! 「950円~」って書いといてよー。
って、ちょっと思った。
深夜になると1200円にまでUPするそうです。だから、営業時間中の時給で言えば、1100円~っていう表記は嘘ではない。
でもさ、昼間の仕込み時間の時給は違うんじゃーん。
って、ちょっと思った。
とはいえ、これくらいなら許容範囲というか、多少は覚悟していたのですが。
最初の100時間は研修期間なので-100円。
っていう条件もありましてね。
つまり、現在の富士子(45歳)の時給は、まさかの850円よ、奥さん!
だったらやめとけば良かったじゃん、という意見もありますが…。
「派遣でもいいからせめて1500円を目指す」っていう道が、思いのほか、茨の道だったもんでね。特に年齢面でねー。その点、居酒屋の面接では、その場で「さっそく採用にさせてください」って言って頂けたもんだから、有頂天になっちゃってねー。
当時の富士子(44歳だった)にとって、「さっそく採用」って、もう、「死ぬまでに一度は言われてみたいセリフ」ナンバーワン。「愛してる」でもなく、「きれいだね」でもなく、「君の瞳に乾杯」でもなく、「さっそく採用」。これを聞かされたら、もう時給とかどうでもいいから、「あなたのところで全力投球します!」ってもんですよ。
そもそも、居酒屋だって、年齢でアウトではないかとビクビクしていたので、採用されたのは本当に嬉しかったです。その辺は→ バイトに挑戦 バイトの面接 実は44歳
なんで、今の仕事についたことに後悔はないのですが…。
もしも、募集記事に「950円~ 最初の100時間は850円」と記載されていたら、応募していなかったかも、とは思います。
が、しかし。
バイト初めて二ヶ月経過しても、ポンコツっぷりに変化が見られない現在、時給850円でも相当な高給と言わざるを得ない。最初の100時間といわず、今年いっぱい研修期間で全然オッケーですから、クビにしないで下さいまし!
ちなみに、バイト先のお店は、別の場所に本社っていうか経営会社があって、採用等はその本社が行ってます。ちょっと釣りっぽい募集記事も本社の仕業なので、料理長(かっこいい)とか店長(初登場)は全く関係ないです。念のため。
それより…。
バイト代が入ったところで、火の車には変わりないっていう現実をなんとかしないと。
働く時間を増やすしかないっ!
ってわけで、この土日も休まず働きます。
えいえい、おー!
「今日のご飯はなんですか」の幸せ おばさんバイトが人生を振り返る
厨房のバイトでは、ご飯の時間になると「まかない」が出てきます。
いわば、ごはんつきのバイトってわけで、飲食業では一般的らしい。
あたしは仕込みの時間に働いてるので、休憩に入る14:30頃に「まかない」を食べます。
もうね、この「まかない」がすごく楽しみなわけよ、あたしは!
キッチン男子のみなさんが、交代で作ってくれるんだけど、大体メニューは朝から決まってる。シフト表に当番の名前が出ているので、「今日のご飯はなんですか」とか、タイミングを見計らって聞いてみる。
この、タイミングが難しいの、おばちゃんにとって。
だってね、みんな、包丁を使ったり火加減を見たり、相当な集中っぷりで仕事してるわけ。段取りを頭で描きながら、手を動かしてるわけ。うっかり、おばちゃんが呑気にご飯のことを聞いたりしたら、「やかましいわ、ババア」とか言われかねない。(いや、言われたことはないけど)
なので、よーくキッチン男子を観察せねばなりません。
で、グッドタイミングで「ご飯はなんですか」と聞くと、
「肉じゃがです」とか、
「から揚げです」とか、
「パスタですね、ミートソースです」とか、答えてくれます。
こちらから、
「もしかして、お好み焼きですか?」、と聞いて、
「そうですよ」、と答えてくれるパターンもあります。
あたしね、このやりとりの瞬間が、ものすごく好きです。
「わーい、今日はから揚げだ!」的な喜びとはまた別に、なんていうのかなー。
自分がものすごく守られてる感じがする。安心するの。
10代のときに初めて読んだ、女優の沢村貞子さんの随筆がありまして…。
沢村さんは撮影のとき、自分でお弁当を作って持って行ってたそうです。
「ツヤ良く磨き上げられた朱塗りの三段重のお弁当箱。一番上には好物のお新香、ほどよくつかった白い小蕪と緑の胡瓜。傍らには黄色も鮮やかな菜の花づけ。銀紙で仕切った半分には蜂蜜を書けた真っ赤な苺の可愛い粒。中の段には味噌漬けの鰆の焼物。その隣の筍と蕗、かまぼこはうす味煮。とりのじぶ煮はちょっと甘辛い匂いがしている。炭にはきんぴらの常備菜。下の段の青まめご飯がまだ何となくぬくもりがあるような気がする。これが、塗りものの功徳というわけ。」
すごく、そそられるでしょ!美味しそう!
食べ物にそそぐ、こまやかさとか、慈しみとか、そんな気持ちまでが美味しそうなのよ!
で、このお弁当ですが、若かりし頃の女優・黒柳徹子さんと共演したときには、徹子さんもお相伴に預かっていたらしい。徹子さんはテレビ局で顔をあわせると、セリフをあわる前にまず、
「ね、かあさん、今日のおかずはなに?」 と聞いてきたそうです。
この話を読んだとき、高校生だった富士子(今は45歳)は、心を強くゆさぶられました。さらっと書かれた軽妙な文章で、なんてことない描写だったのですが、その分、こういうやりとりがごく自然って感じがしたの。美味しいお弁当を作って、それを誰かと食べる。その誰かは家族でもないのに、おおっぴらにそのお弁当を食べてる。これ、すごいじゃん!って思った。
まあ、その頃のあたしは、事情があって実家が一家離散。一人暮らしのおばあちゃんの家に一人で預けられ、育ち盛りの毎日を、愛情はあるが油気の少ないおばあちゃん手製の食事でしのぐ、っていう微妙な境遇。おばあちゃんのご飯は大好きだったけれど、そこにはやはり、他の親戚への気兼ねやそれまでの関わりの薄さ、遠慮、億劫さ、そんなものがうっすらと入り込んでて、苦味を感じることが多かった。そもそも、あたしってば小学校時代も病気で入院してて、病院から学校に通ってたから、食事って、食べられさえすればいい、ってのが当たり前だった。なぜか、実母もご飯を大事にする人ではなかったので、食事は、ガソリン補給とか灯油を入れるとか、そんな役割の作業にすぎなかったの。
美味しいお弁当を分かち合う沢村さんの話は、そんなあたしには、よその世界の話のようだったし、すごく羨ましくて、憧れた。いいなー、って。美味しいご飯が出てきて、「ご飯なあに」と楽しみにするなんて、考えられない生活だったからね。食事には、遠慮と我慢がつきものだったし、食事をめぐって、他人と心を開きあうなんてことも、あたしの知らないことだった。
で、それから30年。
ご飯といえば、自炊か外食の二択、って暮らしを続けてきた富士子(45歳)。
自炊は、それなりに頑張ってきました。
外食も、味気なさを感じながらも、それなりに楽しんでまいりました。
現在、厨房のバイト先で、ついに「まかない」を食べるようになり、「今日のご飯はなんですか」とワクワクしながらキッチン男子に聞いてみる日々を送っていたのですが。
先日のこと。
いつものように「ご飯なんですか」と聞いた後に、不覚にも、涙が溢れてしまいました。
あんまり嬉しくて。
誰かがご飯を作ってくれる。当たり前のように、それを食べる。
そのことにずっと憧れてたんだ、ってことに、突然気がついて、
今それが叶ってるんだ、ってことにも気がついて、嬉しくて涙が出てきた(んだと思う)。
ご飯を食べさせてもらう。あたしは、ただ、食べていればいい。
「まかない」のご飯が出るのは飲食業の単なる慣習で、沢村さんのお弁当とは違うって、わかっているけど、あたしはすごく嬉しかった。
キッチン男子たちだって仕事だから作ってるだけで、特に思い入れもないし、いちいち真心込めてるわけじゃない、ってわかってるけど、あたしはすごく嬉しかった。
45歳にもなってキモい、と言われそうだけど、あたしは嬉しかった。
もう、誰もわかってくれなくてもいい!
あたしは嬉しかった!
「今日のご飯、なんですか」って聞けるのは、聞く相手がいるのは、幸せだよ!
で、もっと幸せなのは、そう聞いてもらえることかもしれないね。
聞いてもらえたことだって、今までにあったはずだけど…
それがどんなに幸せなことか、あたしは今頃になって気がついたよ。
ありがとう、キッチン男子たち。
ありがとう、あたしをクビにしてくれた会社の人。
ありがとう、あたしを採用してくれた料理長(かっこいい)。
ありがとう、沢村貞子。
人生のめぐり合わせって、きっとあると思う。
クビになって仕事がなくて、いい年なのに時給の安いバイト生活になって、端から見たら悲惨な人生かもしれないけど、でも、今この状況だからわかったことや、気がついたことが、確かにあるの。会社員時代は、収入は安定していたけど、大事なことを素通りしていたのかもしれないわ。
今はただ、素直に、「ご飯はなんですか」って聞いて美味しく食べていたい。
たとえ、仕事で作られたご飯だとしても、作ってもらったのは、確かに、あたしのためのご飯なの。しかも美味しい。あたしは楽しみにしてていいし、安心して食べていい。このときだけは、子どもの気持ちに戻ってもいい。
きっと神様が、そういうご飯の時間を、あたしにくれたんだと思うわ。
明日も、美味しく「まかない」を頂きます。
張り切って働かなきゃ!
憧れの「まかない」 厨房バイトのお楽しみ
食べるの大好き45歳、富士子です。
ご飯はデフォルトで2膳。おやつは一日2回。
体型なんか気にしないわ!(うそです、おなかが隠れる大きめサイズを愛用)
「あれ、美味しいんだろうなぁ」っていう、憧れの食べ物って、あるよね。
はじめ人間ギャートルズに出てくる、骨付き肉とか。
酔っ払ったマスオさんが、千鳥足でぶら下げてるお土産の包みとか。(あれは寿司か?)
ハイジが飲んでるミルクとか。
実際に見たことないけど、「きっと美味しいに違いない」と妄想を掻き立ててくる魅惑の食べ物。
あたしにとって、「まかない」も、まさにそうでした。
まかないって、そこで働く人だけが味わえる、ひみつの食べ物ですよね。メニューの料理は注文できるけど、まかないは、注文できない。しかも、たいていの場合、メニューにはない料理が出てくるらしいのです。一体、何を食べてるんだろう、みんな…って、気になりませんか?
もちろんお客様用ではないから、パパっと、チャチャっと、簡単に作られてるわけですよね。でも、テレビや雑誌の「名店の賄い飯特集」的な記事を見ると、市販のレトルトなどは使わず、厨房にある食材でちゃんと作ってる。実際、そのほうが安上がりなんでしょうね。プロが、厨房の食材で作る料理なんだから、間違いなく美味しいはず!
加えて。
美味しいにも関わらず、食べてる人たちは毎日のことだからそんなのは普通なわけです。強い思い入れは全くない(ように見える)。聞かれりゃあ、「あ、美味しいですよ。シェフが作ってくれるんで」とか答えてるけど、心の中で「それが何か?」とか思ってそう。それくらい、食べてる人には当たり前の食事なわけです。
それなのに!
一般人は、決して食べることはできないんです。一生食べずに死ぬんですよ。
お金を出すから!と言ってみてもダメ。「売り物ではないので」って言われるだけ。
そうなるとね。なんか、余計、そそられませんか?
例えばね。
好きな人がいたとしましょう。その人のことを知りたい!と思いますよね。最初は、「どんなことでもいいから知りたい」けど、そのうち「他の人に見せない面を知りたい」「気を許した相手だけに見せる表情を知りたい」「素顔を見たい」…と願うようになりませんか。
そんな時に、もしも、自分以外の誰かが、彼(彼女)の素顔を毎日のように見ているとしたら。
外向きの顔じゃなくて素顔を、当たり前のように見ていて、しかもその貴重さを全く感じていないとしたら。
余計、そそられるでしょ!
その羨ましさたるや、「是非、変わってくれ!」と叫びたいくらいでしょ!
いやー、「秘すれば花」とはよく言ったもんですね。
一般人には食べられない、という、まかないの宿命が、「秘すれば花」感を猛烈にかもし出してる。
それが、「好きな人の素顔」に勝るとも劣らないくらい、あたしをそそるのです。
それからね、「賄う」っていう言葉もすごくイイと思う。
整えてあげるとか、都合するっていう意味だけど、相手のために心をくだく優しさが込められてる気がする。美味しいものにぴったりな言葉だと思うの。
あとね、「まかない」っていう、語感も好き。
「ま・か・な」は母音がすべて「あ」。柔らかくて、包み込まれる感じがする。いかにも、美味しそう!
いつか…。
いつか食べてみたいわ、「まかない」ってもんを。
厨房の片隅や、裏口の踊り場や、屋上の室外機のそばで、仕事の合間に食べるご馳走。
どんなにお客さんが多くて忙しくても、厨房の人たちが、働く人のために作った食事。
短い時間で掻きこむように食べても、いやだからこそ、きっと美味しいに違いない。
そして今…。
食べてます、「まかない」。 美味しいですよ、それはもう!
44歳で会社をクビになり、人生の崖っぷちで始めた厨房のバイトですが…。
不安まみれのバイト生活ですが…。
憧れの「まかない」を食べられた!
会社員時代には、考えられなかったことです。
人生、何が起こるかわかりませんね。
捨てたもんじゃないです。
ちなみに、今日の「まかない」は、お好み焼きでした!
金髪のバイト・天使くん(33歳)作。
フライパンを振る姿が凛々しくて、お見せできないのが残念なくらい。
明日もバイト、がんばろう!
おばさんバイトの分際でちょっとキレちゃって、反省
居酒屋厨房の、できの悪いおばさんバイト富士子(45歳)です。
同じことを何度も言われたり、間違えたり、忘れたり、とキッチン男子に迷惑かけまくりの毎日を過ごしてます。
若い人ばっかりの職場に、ただ一人のおばさんバイト(しかも未経験)なので、当初から、物覚えや手際の悪さに負い目引け目があったのですが…。
実は、とある先輩に、初日からダメ出しを連発されちゃっててねー。「あーあ」とか、「そーやっちゃったんですか」とか、「んー、まあしょうがないですね」とか、軽い舌打ちとか。そもそも負い目があったところに、ズバリと刺さる痛いダメ出し。あたしの察しが悪いからダメなんだな…と反省して、色々先回りしたつもりでも、結局はやり直しになったりして。あたしってダメ人間なんだなぁ、とずっと心苦しく思っていました。
が、しかし。そのうち、
「前はダメって言ったのに、今回はイイの?」とか、
「前はイイって言ったのに、今回はダメなの?」とか、
「今になって、こうすれば良かったのに、とか言われても」とか…。
先輩にそう思っちゃう場面が増えてきてですね…。日が経つにつれ、だんだん感じるようになったんですよ。「このダメ出しって、仕事のルールにのっとってるんじゃなくて、先輩の単なる個人的なこだわりなんじゃ…」と。
こうなると、どうしていいのかわからない。
あたしの物覚えが悪さを、先輩だって我慢してくれてると思う。でも、本当に仕事上必要なのかわからない、個人的なこだわりや好みで追い詰められるのは、あたしだって辛い。料理長(かっこいい)に相談しようか迷ったけど、文句つけてるみたいに思われたら嫌だしなあ…。
二ヶ月目にしてちょっと行き詰ってしまいました。
そんなある日。
串焼き用の串を補充するって、いう仕事で、例によって、先輩からダメ出しを頂きまして。それが、普通のダメ出しじゃなかった。補充してる真っ最中に、「もうやらなくていいから」と交代させられちゃった。もう、テポドン級のダメ出し。ダメっていうより、クビ? でもさ、あたし、そんな致命的な間違いはしていないと思うんだけど…。そうだとしてもさ、ちょっとさ、もっとやりようがあるんじゃないのー。
という、反発心がムクムク沸いてきちゃいましてね。
憮然として、獅子唐を串に刺してたんですけど、ちょっと我慢できなくなりまして。
ちょうど目の前で、金髪の天使くん(33歳)が缶コーヒー飲みながらタバコ吸って休憩してたのね。
「あたし、何か変なことやりました? 何ですか、あれ」
っつって、ちょっとキレ気味に聞いちゃったの。
もう、顔つきがグレてるのが、自分でもわかった。
そしたら、天使くん、
「え? 俺わかんないっす。」
っつーから、
「ああやって、やってた仕事を直されるの、一度や二度じゃないんですけど。何なんですか一体。」
って、重ねて言っちゃったのよね。
天使くん、訳がわかったみたいで、
「あーあ。先輩、自分の好きなやり方があるんじゃないっすか。そんだけっすよ。あ、俺は、ぜんぜん大丈夫っすよ、富士子さんのやり方で。俺は大丈夫なんで。」
って、タバコ持った手をぶんぶん振りながら言ってくれたんだけど。
それが、えらくビビッてる感じでね。
天使くん(33歳)ってね、金髪に染めてて、耳にも眉にも、いくつもピアスつけててね。あたしはずっと「この人怖いわ…」と思ってたんだけどね。
こんときばかりは、あたしのほうがずっと怖かったみたい…。
まあ、結論から言うと、その日は年明けにつき食材不足で、先輩も大変だったので自分のやり方で全部進めないと不安だったみたいです。
それにしても、後味が悪くてねー。
天使くん、っていうベテランの先輩に毒を吐いちゃうなんて。しかも、彼は私より一回りも年下。そんな相手に、不満ぶちまけないでしょ、普通。そりゃマズイっしょ。
翌日、料理長(かっこいい)に、正直に申し出ました。
「昨日、先輩のことでキレちゃって、天使くんに八つ当たりしちゃいました」って。
そしたら、
「聞きましたよ。先輩くん、もともとああいう奴だから、気にしないでください」
だって!
天使くんまで、
「あの先輩のことは、誰もが乗り越えてきたんですよ。大丈夫ですよ」
って励ましてくれたんだけど!
なんだー
やっぱり、もともと、そういうとこ、あったんじゃーん
みんなわかってたんじゃーん 早く言ってよー
ずっと困ってたんだよー、うえーん!!
ってことで。
あたしが、物覚えも手際も悪くて、みんなに迷惑かけているのは間違いないのですが、先輩のことで必要以上に悩むことはない、ってことが明らかになりました。
先輩は、すごく真面目で正直で、ちょっと、自分のやり方を大事にする&不安になりやすい。そんだけ。決して意地悪ってわけじゃない。
料理長や天使くんと話して、ほっと一安心。しかも二人ともすごく励ましてくれました。
今回のことで、衝撃的だったのは…。
料理長(かっこいい)が、
「先輩くんのことで、富士子さんに迷惑かけて申し訳ないです」
と、言ってくれたことです。
ちょっと耳を疑いました。
あたしみたいな出来損ないのおばちゃんバイトに、ちゃんと礼を尽くしてくれてる。
気持ちを慰撫してくれている。
そしてなにより、先輩をちゃんと庇ってる。
なんて大人なんだろう。
ちょっとでもキレちゃった自分の子どもっぽさが、ものすごく恥ずかしい。
あたしが会社員で部下がいた頃…。
あたしは料理長みたいじゃなかった。
あたしに後輩がいた頃…。
あたしは、天使くんみたいじゃなかった。
もっともっと、ちっちゃいせこい奴だった。(今もだけど)
そう思うと、、胸を抉られるような気持ちになる。
あああ。
あたしも、いつか、料理長みたいになれたらいいな。
色々あるのを飲み込んで、何もないかのように、きれいで美味しい料理を作っていく。
そんなふうに、強く優しくなれたらいいなあ。
ってか、もっと大人になれ、富士子。いろいろ反省しとけ!
さーて。明日はどんなことで反省会かな。
何があっても、七転び八起きだ!
おばさんバイトの居場所は、暗いです。いろんな意味で。
居酒屋厨房で、野菜を串に刺すバイトやってます。富士子(45歳)です。
これね、一般的には「串打ち」って言うらしいの。焼き鳥屋さんなら鳥を串に刺すわけで、けっこう重要セクションらしい。あたしのバイト先も、レバーや牛ヒレの串打ちはあるんだけどね…。あたしが下手すぎて、あまり任せてもらえない。トホホー。
バイト始めて知ったんですが、厨房って、作業の分担と場所が決まってるんです。サラダやデザートを担当する「サラダ場」、肉や野菜を切る「刺し場」、火を使う「焼き場」「揚げ場」ってな感じで。それぞれのお店によって、細かい分担は違ってきます。
では問題!
あたしのバイト先で、野菜を串に刺すのは、なに場、と言われてるでしょうか!
答えは、「そんなの、ない!」です。
キッチン男子たちはね、厨房で仕事してるんですよ、当然。
料理長(かっこいい)は、「裏」と呼ばれる奥の院にいることが多いです。ここはね、流し&まな板&ガスコンロ&フライヤーをいっぺんに使える場所。しかも、調味料やボールやバットもすぐそば、っていう、まさにキッチン番長にふさわしい玉座。
他のキッチン男子たちも、ローテーション組んで、厨房内を順繰りに仕事してます。
で、野菜の串打ち係・富士子(45歳)の定位置はどこかっていうと!
お店のカウンター席です。厨房の外の。
「なに場」とか、そういう名称は、ないです。 ええ、はい、ありません。
まあねー。人目もないし、気楽なんだけどねー。
キッチン男子たちが、作業の合間に一服するのも、カウンターなんだよね。カウンターの内側、すなわちお店の人が料理を運んでくる側に、あたしがいる。カウンターの外側、お客さんが座る席で、キッチン男子が休憩する。
つまりね、あたしが立って獅子唐のヘタを外してる目の前で、金髪の天使くん(33歳)が、座って缶コーヒー飲んでタバコ吸ってるわけ。
いや、それ自体はいいのよ。あたしが立ってて、天使くんが座ってるのはもちろん気にならないの。気になるのはね、天使くんの視界に、富士子が入っていないんじゃないか?ってことなの。
なんかこう、空気みたいに思われてるんじゃないか?
だってね、普通に、独り言言ったり、ため息ついたりするのよ、天使くん。肩をすくめて「さみーなー、もう!」とか。スマホいじって「やべっ」とか。こっちはおばちゃんだからさ、当然、「寒いですよね」とか「大丈夫ですか」とか言うじゃん。すっとさ、「あ、気にしないでください」って返してくるのよ。ちょっと、どういうこと?
誰だってね、目の前でそんなこと言われたら、気になるっつーの!
もうね、最近はね、自分から、気配を消すようにしてる。富士子を見ようと思っても見えない!ってくらい、気配を出さずにやってる。おばちゃんの、ささやかなレジスタンスなんだけどね、当然、誰も気がついてないです。
それからね。
カウンター席は、デート仕様になってて、照明が暗いのよね。しかも、作業は営業前だから、最低限の灯りしかつけてないわけ。
富士子(45歳)はね、初めて言うけどね、老眼けっこう来てる。文庫本はちょっとつらい。獅子唐を串に刺す、って、もう、視力ギリギリなんですよ。玄界灘ですよ。
なら老眼鏡かけりゃあいいじゃん、って、あなた。できませんよ、そんなこと。キッチン男子たちとの世代の差を、「最大限、最小と思わせたい」と日々努力してるっつーのにね。水の泡じゃないですか。
もうね、「じっと目を凝らして、焦点を合わせてから、あまり視点を変えることなく、一気に串に刺す!」って技を編み出して、毎日乗り切ってます。串打ちよりも、「焦点を合わせる」ってのがすごい上達してます。
あああ。
あたしもね、いつの日か、「なんとか場」に立ってみたい…
シフト表みて、「あ、あたし今日、サラダ場なんで」とか言ってみたい…
「一息入れるか」なんつって、カウンターで缶コーヒー飲んでみたい…
いや、せめて…カウンターの電気をもっとつけて欲しいです。
さーて、明日はどんな一日になるかな。
バイトは11時から。がんばります!
おばさんバイト、クビか?そもそも、続けていいのか?
ただいまー!
居酒屋厨房バイトに、新人君が入りました!彫りの深いエキゾチックな顔立ちに、濃い目のひげ、シルバーのごっついネックレス。「よし、今日からおまえはアントニオだ!」(C)太陽にほえろ ってことで、富士子的には、アントニオ(推定26歳)に決定。パチパチパチ!
気になるのは、かねてより、職場になじめず仕事もおぼつかない富士子(45歳)。いよいよ、クビになるのか? お払い箱か? いやー、世の中ね、簡単にクビになったりしない、労働者の権利は強い、って言いますけど、あたしは実際クビになったことあるんで、リアルな恐怖だったりするんですよ。でもね、たぶん大丈夫。過去も、饂飩くん(21歳)、松木君(仮名、19歳)というニューフェースが入りましたが、彼ら、サラダ場やデザートを担当して立派に調理やってるしね。あたしの大事な(唯一の)仕事、野菜の串打ちを他の誰かが担当する気配は微塵もない。今回も大丈夫。心配ない。案ずるな富士子。
ま、そう自分に言い聞かせて、アントニオ(推定26歳)の動向を見守ったわけですが。
なんと彼は調理経験者らしくって、いきなり刺し場に入って、カッチョ良く白髪ねぎ作ってました。いきなりセンター。4番打者。わーお!
そういうわけで、今回も、クビではなさそうです。あーよかった。ま、良く考えたら、あたし、そもそもベンチにいるのかどうかも定かじゃなかった。思いっきり戦力外。そこって、けっこう安全地帯なのかもしれないわね。クビになった会社では、それなりのポジション…ってわけでもないけど、「あいつさえいなければ」って思われる程度には、幅を利かせちゃってたから。だからこそ、大鉈振るわれて追い出されちゃったわけで。その点、今の厨房バイトは、「あ、あのおばちゃん?いいんじゃない、いても」っていう暖かいまなざしで見てもらってる(と思う)。
ありがとう料理長(かっこいい)。ありがとう、みんな。
とはいえ、ね。あたしも迷うときはあるわけ。
やったこともない、右も左もわからない厨房のバイトやってるとさ。
しかも、若い子ばっかりの中にいるとさ。
先が見えない不安、期待されない失望、若い人についていけない無力感……いろんなものが襲いかかってきて、眠れない夜がたくさんある。
どうするの、これから? このまま、ずーっと、椎茸を串に刺して生きていくの? 誰かの役に立ってるとか、誰かとつながってる実感を持ててる? 本当に必要とされてるの? みんなが成長していくのをただ眺めて、自分は何もできないまま年を取って、それでいいの?クビにおびえて、ビクビクして、しかも居酒屋の厨房のパートのおばちゃんやってるんです、なんて本当に満足なの?
もっと、時給も世間体も良い職場に変わるのはどう? 先がないのは同じとしても、せめて、お金と見栄が満たされれば、人にも笑われないし不安はまぎれるよ…。
そんなことを考えてると、丑三つ時を過ぎちゃう。
でもね、やっぱりね。
あたしは、今の厨房にいたいよ。美しい大根のつまを作る料理長(かっこいい)とか、心優しい大久保くん(仮名、24歳)とか、金髪で怖いけど仕事が速い天使くん(33歳)とか、指示が細かいけどいつもフォローしてくれるルドルフ先輩(38歳)とか、やっぱり、厨房のみんなが好きだし。
厨房では、毎日たくさんのお料理が出来上がっていくの。
サラダの野菜が水を張ったボールに浮かんでて、大きな肉の塊からタンやハツが切り出されて、真っ白い大根に包丁が入って透き通るような薄さにむかれていって、丁寧にした処理した海老が湯葉にくるまれてバットに並んでて、ゆっくり煮込まれたばら肉がつやつや光って八角の香りをさせていて、たまご色のクリームがふるふるのババロアに仕上がっていく。
キッチン男子たちが、魔法みたいに料理をこしらえていく様子が、やっぱり大好き。
高い時給じゃないけど、世間体悪いかもしれないけど、やっぱり、厨房にいたい。
こんなにみんなのことが、みんなが料理をしているのが好きになるなんて思わなかった。
これってさ、ものすごいことじゃない?
大好きなものと出会ったのよ。45歳にもなって。思いがけず。
そういうものは、手放しちゃいけないと思うの。きっと、あたしにとって、あたしの人生にとって、すごく大事なものなのよ!何がどう大事なのか、なんで大事なのか、今はわからないけど、続けていけばきっとわかると思う。時給だとか世間体だとか、そんなことで手放したら、これから先も、お金と見栄で自分を納得させる人生になっちゃう。今は、大事に思うものを、精一杯大事にしていくわ。
ありがとうアントニオ(推定26歳)!
クビになるかと怯えたのがきっかけで、色々考えることができたよ。厨房のパートのおばちゃんとして、がんばる気持ちがみなぎってきた!明日もよろしくね。
今月は、一日も休まないで働くよー。
ホントにクビにならないよう、がんばらなきゃっ。
おばさんが子どもの頃、テレビは…
居酒屋厨房バイトの紅一点、富士子(45歳)です。
昨日、キッチン男子の大久保くん(仮名、24歳)を、大人としてご紹介しましたが。結構、絶賛したんですが。
今日ね、賄いを美味しく頂いてるときにね、大久保くんったらね、
「富士子さんが子どもの頃って、テレビはモノクロでした?」
って聞いてきやがったのよ。
カラーだったわよ。生まれたときからカラーでした!
って言いたかったけどね、とっさのことで、言葉に詰まっちゃってね。そしたらルドルフ先輩(推定34歳と思ったら38歳だった)が、「相当馬鹿にされてますよ、富士子さん」っつって、追い討ちをかけてきやがってね。なんなの、この連係プレー。なんなの、このアウェーな感じ。
でもまあ、現在45歳って、モノクロ派がいてもおかしくないのよね。当初、総天然色って言われてたカラーテレビを、メーカーが盛んに宣伝し始めたのが1964年のオリンピックあたり。1968年頃には、松下電器(当時)や日立、ソニーから低価格のカラーテレビが発売されて一気に普及、1973年にはモノクロテレビを上回ったわけ。あたしが生まれたのは1969年で、物心ついた5歳ごろっていうと1974年。世間的には、モノクロもカラーも混在してたはずなのよ。まあ、あたしは上に兄弟がいたし、親も新しいもの好きだったから、富士子家は一致団結して早々にカラーを導入したんだと思うわ。
だからね、大久保くん(24歳)の質問も、あながち的外れじゃないんだけどね。それはわかってるんだけどね。よーくわかってるんだけどね。普段から、年の差をビシバシ意識してて、意識しすぎて「ガキの使いとか、あたしも好きだよー」アピールしつつテレビの話題についてってる微妙な乙女(許して)としてはね、「俺らとはガッツリ世代がかけ離れてますよね」って念押しされたみたいで、ちょっと挫けそうになるわけ。
なによ、なによ!そりゃー、携帯とかwebとかさすがになかったしさ、電話といえば家電で、ボーイフレンド(まさか死語?)と電話するときは親が出ちゃうと恥ずかしいから時間を決めといたりしてさ、でも下の弟が出ちゃってニヤニヤされて「あんた、あっち行っててよ!」なんて受話器を押さえて追い払ったりして、LINEでおやすみなさーい(はあと)!なんて考えられない時代だったけどさ。そもそも、テレビだって、親が野球見てりゃあ、子どもは我慢。「録画機能」なんて言葉すらなくてね。諦めるしかなかった。きんちゃんは良いけどドリフはダメ、なんて言われて、「全員集合」見るために兄弟で皿洗いして親の機嫌とったり、家でのひげダンスは自粛したり、そりゃあ、苦労しましたけどね。チャンネルは丸いダイアルをガチャガチャ回すやつで、弟と取り合ってたら外れちゃって、ペンチで回してたしね。しばらく、ペンチの定位置はテレビの上だったしね。おばあちゃんちのテレビには、ブラウン管の前にカーテンかかってたしね。映りが悪いときは横っちょをバンバン叩くと直ったりしてね。
ま、大久保くん(24歳)からしたら、歴史博物館的な「へえー」な話ですけどね。
それでも、テレビはカラーでした!大久保くんと一緒なんですよーだ!!
昨日ブログで褒めて損したっ!ちっきしょー! (C)小梅太夫(ちなみに42歳)
ああ、キッチン男子たちの仲間に入れる日は来るのか。
明日もがんばるよ。もう、がんばるしかないよ、富士子!
大人なキッチン男子、大久保くん(仮名、24歳)
居酒屋の厨房は職人の世界。だから政治なんてない。
って、思ってたんですけど。
やっぱり人間が集まるとそれなりに関係性ってもんは出てくるよね。政治ってほどじゃなくても、うまくやらないと差しさわりがある、って場面は厨房にもありまして。
バイト先の厨房には、キッチン男子が6人くらい居るんですけどね。だてに45年も生きてないよ、あたしだって。たった二ヶ月、一日数時間しか関わってないけど、自分の仕事でいっぱいいっぱいだけど、それでも男子たちの距離やバランスが、うっすら見えてきた!
大人しく真面目なキッチン男子たちは、ズレた相手や食い違う場面にもポーカーフェイスで対応するので、あたしも最初はわかんなかった。でもね、うまくはまらないパズルのピースのように、調和しない空気っつーんですか、ごくごく稀に生まれるそんな空気が、おばちゃんにも感じ取れるようになって来たの。
そんな中で、俄然あたしが注目しているのが、大久保くん(24歳)の神対応。
彼ったら凄いのよ!
料理長(かっこいい)がたまーに、ズレた相手について困惑のコメントを洩らすことがあるの。
大久保くん、「共感するけど、尻馬には乗らない」。
つまりね、全面的に同意するけれど、同じ土俵に立ってコメント言ったりしないの。
同意してもらえることで、料理長はまず満足するよね。しかも、大久保くんは一緒になってわーわー文句を言ったりはしないで、困ってる料理長をねぎらったりする。そこで、料理長も溜飲が下がっていつもの穏やかな笑顔に戻っていくわけです。
その一方で、ズレ男子も、不満や言い訳をこぼすことがあるんだけど。
大久保くん、「共感しているかのように優しく聞いてるけど、ノーコメント」。
つまりね、笑顔で聞いているけれど、同意はせずに、「そうなんですかー」と受け流してるの。ウケて笑ってあげたりしてね。ズレ男子も、まあ、笑い話にして終わるわけです。
一見すると、両方にいい顔をしているように思えますが。ちがーう!!
端から見ていても、大久保くんの気持ちが入っているのは、料理長に対して。ただ、料理長には謙虚な態度で控えめにしてる。ズレ男子に対しては、優しく聞いてあげているんだけど、聞いてるだけって悟られないようにしてる。
だから、彼自身も、決して自分にうそをついてるわけじゃないし、わざわざ計算してやってるわけでもないと思うの。
この辺のバランス感覚というかねー、自然な振る舞いがねー、「神対応って、こういうことだな!」って、おばちゃんは感動するのよね。だって、ホラ、あたし、会社クビになったりしてるじゃない?こういう対応は、超へたくそだからね。大久保くん(24歳)、若いのにスゲーな、大人だな。って思うわけ。一体どういうこと?親御さんはどんな方?とか、興味は尽きない!
で、おばちゃんって、基本、情報局だからね。折を見て、大久保くん情報を仕入れて、彼の神対応のひみつを調査しました。
その結果がこちら。
・仕事ができる
先輩の仕事ぶりを良く研究して、お手本にしてます。見てると良くわかる。仕事ができる人は一目置かれるから、おのずと自信と落ち着きが出て、対応にも余裕が生まれるのでは。
・彼女がいる
これねー、結構重要よ! 寄り添ってくれる恋人がいるのって、大きな自信になると思うの。これも、彼の余裕の秘密に間違いないわ。
・野球部のキャプテンだった
いやあ、これを聞いたときには、「なるほど!」ってひざを打ちましたね。持って生まれた人望とリーダーシップがあったんですね。もともと、人と関わるのが得意なキャラだったんでしょう。
・ご実家は商売をなさってる
ご幼少のみぎり、兄弟だけでお留守番して、夜ご飯やお風呂も、自分たちでやってたみたいです。この経験が、協力するとか円滑なチーム運営とかの原体験になったのでは?と勝手に想像。
こうしてみると、納得だよねー。
大久保くん(24歳)は、職人の癒し系キャラとして、厨房になくてはならない存在なのでした。
あたしも、彼がいるとほっとします。
まあ、欲を言えばね。あたしも、そんなキャラでみんなに必要とされてみたいよね。お荷物なおばちゃんパートのままじゃ、切ないしねー。でもねえ、ここまで書いて気がついたけどね、おばちゃん、どの条件もクリアしてなかった。まっしろ。どうする? 今から巻き返すか。
ってか、今からやるべきなのは、お風呂の支度だな。
あったまって、とっとと寝ます。
明日もバイトだー!
がんばるぞー!